困ってから調べるの、遅いです。
千葉で停電が2週間続いたとき、家で何が止まったか(2019年台風15号)(イメージ)139,744戸台風15号の最大断水戸数(全国合計。千葉県内は13万3,474戸)。水道施設の被害294件のうち284件は原因が「停電」で、管体の破損は0件(厚生労働省 水道施設被害状況調査報告書)
暮らし編

千葉で停電が2週間続いたとき、家で何が止まったか(2019年台風15号)

先回り大家最終確認 2026-08-19

2019年9月の台風15号(令和元年房総半島台風)で、13万9,744戸が断水しました(*1)。千葉県内だけで13万3,474戸・15事業体(*4)。国の調査報告書に載っている水道施設の被害は294件。そのうち284件は、被害の原因が「停電」です。管体(水道管)の破損は0件、継手の破損も0件でした(*1)。

水道管は、1本も壊れていません。それでも水は出なくなりました。

停電の話をするとき、多くの人は「冷蔵庫が」「スマホの充電が」と考えます。実際に起きたのは、電気が止まったことによって、水と情報が止まったという連鎖です。順番に見ていきます。

1. 止まったのは電気ではなく、水だった

被害を受けた施設の内訳は、ポンプ場127件・水源/取水場110件・浄水場36件・配水場等21件(*1)。全部、電気で動く場所です。

千葉県内の被害を、報告書の表からいくつか挙げます(*1)。

  • 山武郡市広域水道企業団(東金市・山武市・大網白里市ほか)64,889戸 =「千葉県九十九里地域水道企業団からの送水停止(停電による浄水場運転停止)による断水」
  • かずさ水道広域連合企業団(木更津市・君津市・富津市・袖ケ浦市)18,810戸 =「停電による断水」・9月9日〜9月25日
  • 南房総市 6,800戸 =「停電により断水」・9月11日〜9月21日

被害等の状況の欄が、ほぼ全部「停電による断水」で埋まっています。全ての地域で断水が解消したのは9月25日。上陸から16日後です(*1)。

ここから読めることは1つです。あなたの家の蛇口から水が出るかどうかは、あなたの家に電気が来ているかどうかとは別に、浄水場とポンプ場に電気が来ているかどうかで決まる。自宅が停電していなくても、水は止まりえます。逆に、自宅の停電が直っても、水は戻っていないことがあります。

だから、停電への備えを「電気の備え」だけで組むと穴が空きます。停電の備蓄リストの一行目は、水です。

2. 「あと何日か」が分からなかった4日半

もう1つ、この災害が残した記録があります。復旧の見通しが、いつまでも出てこなかったことです。

千葉県の検証報告書に、発表の時系列が載っています(*2)。

  • 9月10日 14:30「千葉県南部は本日中の全面復旧は困難な見通し」
  • 9月10日 17:00「今夜中に12万軒まで縮小」
  • 9月11日 18:30「千葉市エリアは12日、残るエリアは13日以降」
  • 9月13日 18:00「地域別に、3日以内、1週間以内、2週間以内」

上陸は9月9日の早朝です。「2週間」という言葉が出たのは、5日目の夕方でした。

国の検証でも、こう整理されています。倒木で山道が寸断されて巡視が進まず、被害の全容が見通せない。過去の実績から見通しを作ったが、巡視が進むと事故点が予想以上にあることが判明し、復旧の見込みが数度訂正された。結果、市区町村別の復旧見通しの概要が公表されるまでに4日半を要した(*3)。

これは電力会社を責める話ではありません。備える側の設計が変わるという話です。

「3日分の備蓄」は、3日で復旧するという意味ではありません。3日経った時点で、まだ「あと何日か」を誰も言えない状態がありうる。そのとき、残りの備蓄をどう使うかを決められる人と、決められない人がいます。

だから、備蓄は「3日分あるか」ではなく、「1日にどれだけ減るか」を知っているかで持つほうが実用的です。水は1人1日3L、携帯トイレは1人1日5回。この2つを知っていれば、手元の在庫を日数に翻訳できます。復旧見通しが出なくても、自分で見通しが立ちます。

3. 「停電0件」と表示されていても、あなたの家は停電している

これはあまり知られていません。国の検証報告書の指摘です(*3)。

現在の電力会社のホームページにおける停電情報システムでは、配電線の開閉器が自動で管理されている区間内では停電件数のカウントが自動処理される仕様上、高圧線の復旧作業が完了すると、たとえ個別の需要家において低圧線や引込線の損傷による停電が続いていたとしても、ホームページ上は停電件数が0件と表示されてしまうことが課題となった。

つまり、地図が真っ白になっても、あなたの家だけ電気が来ていない状態がありえます。しかもそのとき、電力会社側からはあなたの家が見えていません。

台風15号では、この穴を埋めるために、各家庭のスマートメーターの電力使用情報から「低圧線・引込線の損傷が原因で停電している可能性のある家」を絞り込み、2,593件を巡視して769件の被害箇所を特定しています(*3)。裏返すと、この作業が始まるまで、その769件は数字に入っていなかったということです。

対策は単純です。「近所は点いているのにうちだけ点かない」ときは、待たずに電力会社へ自分で連絡する。復旧を待っている間、あなたの家は誰の待ち行列にも並んでいない可能性があります。

4. 情報も止まった

千葉県の検証報告書に、こう書かれています(*4)。

大規模停電が発生し、テレビやインターネットから情報を得られない状況が生じたため、被災市町村における給水・充電・物資提供などの生活関連情報を、県で取りまとめてプレスリリースし、新聞報道を通じた情報発信を行った。

県が、新聞に頼りました。給水車がどこに来るか、充電をどこでできるかという、その日いちばん必要な情報が、テレビとネットからは届かなかったからです。

同じ報告書には、9月11日時点で県所管の社会福祉施設709のうち、停電131・断水98、そして「確認中」106という数字があります。確認中の理由は「電話連絡が難しいため」(*4)。停電が長引くと、安否確認の電話すら通らなくなるということです。

備えとして具体化するなら、電池式のラジオを1台。これは非常持出袋の飾りではなく、テレビとネットが同時に落ちたときの唯一の受信手段です。

なお、県の集計では、この台風による県内の死者は2名、うち2名とも「災害関連死」として記録されています(令和2年3月19日時点)(*4)。風で直接ではなく、そのあとの暮らしのなかで失われた命として数えられている、ということです。

大家として言えること:軒先から先は、あなたの設備です

私は千葉県で戸建てを3棟、貸しています。この1年で直したのは6件。2025年6月に屋根、9月に風呂の床。2026年3月にトイレの部品交換で19,800円、翌4月に同じトイレを本体ごと交換して本体43,500円+工事24,200円。6月は給湯器交換と雨漏り修理が重なりました。全部、壊れてから業者を呼んだものです。

その経験から、停電について1つだけ知っておくと得をする話をします。電線は、どこまでが電力会社のもので、どこからがあなたのものかです。

東京電力パワーグリッドの説明では、電柱から軒先などの引込線取付点(黄または赤のチューブが付いているところ)までが引込線で、「引込線取付点が、お客さまの設備と東京電力の設備の境目(保安責任・財産の分界点)になります」(*5)。その先は引込口配線を経由して屋内配線になります。

台風で壊れるのは、電柱だけではありません。軒先や外壁が壊れれば、その取付点ごと壊れます。そこから家側は、電力会社の復旧工事の対象ではなく、電気工事店に頼む所有者側の工事になりえます。「電柱は直ったのに、うちだけ電気が来ない」の正体は、ここにあることがあります。

そして貸家の場合、これがいちばん厄介です。大家は、そこに住んでいません。停電にも断水にも自分では気づけない。入居者からの連絡が、唯一の検知手段です。だから私は、災害のあとに「何かありませんか」と自分から連絡を入れるようにしています。相手が遠慮している間に、修理は1日ずつ遅れます。

※どこまでが誰の設備かは契約や引込方法によって異なります。実際の切り分けは、電力会社または電気工事店にご確認ください。

今日やること(3行)

  1. 水の在庫を「日数」ではなく「本数」で数える(1人1日3L。停電=断水だと思って積む)
  2. 電池式のラジオと予備の電池を1セット、決まった場所に置く(テレビとネットが同時に落ちる前提)
  3. 家の引込線取付点を1回だけ見上げておく(軒先の、黄か赤のチューブが付いているところ。ここから先は自分の設備)

停電は、電気が消える災害ではありません。水と情報が消える災害です。困ってから調べるの、遅いです。


出典

  • *1 厚生労働省 医薬・生活衛生局 水道課「令和元年度(2019年)房総半島台風(台風第15号)及び東日本台風(台風第19号)水道施設被害状況調査報告書」(令和3年3月/水道行政の移管により現在は環境省サイトで公開)=2.2 断水の状況「断水戸数の推移は以下のとおり。最大断水戸数は、139,744戸であった。9月10日6時30分に105,431戸となり、9月12日7時30分には22,031戸まで減少したが、9月12日13時には29,794戸まで増加し、その後は緩やかに解消した。なお、主な被害要因は停電であった。全ての地域で断水が解消したのは9月25日であった」。表2-4=かずさ水道広域連合企業団18,810戸(9/9〜9/25・停電による断水)/山武郡市広域水道企業団64,889戸(9/9〜9/11・千葉県九十九里地域水道企業団からの送水停止(停電による浄水場運転停止)による断水)/八匝水道企業団15,500戸/南房総市6,800戸(停電により断水)ほか、合計139,744戸(同表の出典は内閣府「令和元年台風第15号に係る被害状況等について」令和元年12月5日17時00分現在)。表2-7=構造物及び設備の被害件数294件の内訳はポンプ場127件・水源/取水場110件・浄水場36件・配水場等21件、被害要因別では停電284件・水流等2件・風害1件。表2-8=被害形態別はその他(停電等)290件・設備の被害4件、管体の被害0件・継手の被害0件・管路の付属設備の被害0件。https://www.env.go.jp/content/900547254.pdf
  • *2 千葉県「令和元年房総半島台風等への対応に関する検証報告書」第3章(健康福祉部)=停電復旧見込みの発表時系列。9月10日14:30「千葉県南部は本日中の全面復旧は困難な見通し」/9月10日17:00「今夜中に12万軒まで縮小」/9月11日18:30「千葉市エリアは12日、残るエリアは13日以降」/9月13日18:00「地域別に、3日以内、1週間以内、2週間以内」。https://www.pref.chiba.lg.jp/gyoukaku/press/2019/documents/houkokusyo3-2.pdf
  • *3 経済産業省 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス基本政策小委員会 電力レジリエンスワーキンググループ「台風15号・19号をはじめとした一連の災害を踏まえた電力レジリエンス強化に向けた対策(取りまとめ)」(令和2年1月10日)=「9月9日7時50分には関東広域で最大約93万戸の停電が発生」「停電発生から10日以上経過した9月21日に停電件数が1万戸以下となり、(中略)復旧が完了したのは9月24日であった」「概ね停電が復旧(停電件数がピーク時と比較して99%解消)するまでの時間についても約280時間を要した」「電柱の折損、倒壊数は昨年の台風21号の約1.5倍」。復旧見通しについて「巡視が進む中で、各回線の事故点が当初の予想以上にあることが判明したため、停電復旧の見込みが数度訂正された。その結果、地域全体の市区町村別の復旧見通しの概要が公表されるまでに4日半を、市区町村内の地区ごとの復旧見通しの公表には更に時間を要した」。停電情報システムについて「高圧線の復旧作業が完了すると、たとえ個別の需要家において低圧線や引込線の損傷による停電が続いていたとしても、ホームページ上は停電件数が0件と表示されてしまうことが課題となった」「各需要家のスマートメーターの電力使用情報を用いて、低圧・引込線の損傷が原因で停電している可能性のある需要家を絞り込み、個別の巡視を行った。その結果、2,593件を巡視した中から、実際の被害箇所769件の特定につなげることができた」。https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/resilience_wg/pdf/20200110_report_02.pdf
  • *4 千葉県「令和元年房総半島台風等への対応に関する検証報告書」=第2章 被害状況(房総半島台風・令和2年3月19日14時現在)「死者2(内災害関連死者2)・負傷者84」「住家被害 全壊409/半壊4,281/一部損壊71,624/床上・床下浸水96」「電気:最大で64万1,000軒 停電」「水道:合計13万3,474戸 断水(15事業体)」。第3章=社会福祉施設等の被災状況(令和元年9月11日13時時点)「合計709施設のうち停電131・断水98・確認中106」「確認中の施設:電話連絡が難しいため、市町村、健康福祉センターと連携しながら、直接状況を確認」。第4章 災害時の広報「大規模停電が発生し、テレビやインターネットから情報を得られない状況が生じたため、被災市町村における給水・充電・物資提供などの生活関連情報を、県で取りまとめてプレスリリースし、新聞報道を通じた情報発信を行った」。https://www.pref.chiba.lg.jp/gyoukaku/press/2019/kensyou-last-houkoku.html / https://www.pref.chiba.lg.jp/gyoukaku/press/2019/documents/houkokusyo2-2.pdf / https://www.pref.chiba.lg.jp/gyoukaku/press/2019/documents/houkokusyo4.pdf
  • *5 東京電力パワーグリッド「引込線(保安責任・財産の分界点)」=「引込線とは電柱から軒先などに取り付けられている引込線取付点(黄または赤のチューブがついているところ)までをいい、その先は引込口配線を経由して屋内配線となります。引込線取付点が、お客さまの設備と東京電力の設備の境目(保安責任・財産の分界点)になります」。https://www.tepco.co.jp/pg/consignment/for-general/basic-knowledge/spur-line.html
  • *6 内閣府『令和2年版 防災白書』特集 第1章第1節1-2「令和元年房総半島台風による災害」=「千葉市では、最大風速35.9メートル、最大瞬間風速57.5メートル(観測史上1位)」「最大約93万4,900戸の大規模な停電が発生」。https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r02/honbun/0b_1s_01_02.html
  • *7 自宅(千葉県の戸建て・賃貸中)の修繕実額。2025年6月=屋根修繕、2025年9月=風呂床修繕、2026年3月16日=トイレのボールタップ・フロート交換19,800円(税込・業者請求書)、2026年4月=同トイレの本体交換 本体43,500円(通販購入・領収書)+工事24,200円(税込・業者請求書)、2026年6月=給湯器交換および雨漏り修理。物件の所在地・業者名は非公開。
  • ※水1人1日3L・携帯トイレ1人1日5回の根拠は、それぞれ農林水産省「家庭備蓄ガイド」および内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)。後者は本サイトの別記事で詳述しています。