困ってから調べるの、遅いです。
築30年の擁壁は、家についてくる潜在債務です(買う前に見る3点)(イメージ)9.0点国土交通省のチェックシートで「危険性が高い宅地擁壁」とされる総評点。石積み擁壁が「明らかに前傾し、途中に折損がある」場合、この1項目だけで9.0点=ほかが全て0点でも×に届く(国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」)
住まい編

築30年の擁壁は、家についてくる潜在債務です(買う前に見る3点)

先回り大家最終確認 2026-08-25

千葉県は、2025年5月26日に県内のほぼ全域を「宅地造成等工事規制区域」に指定しました(*1)。山あいだけの話ではありません。県が指定権者ではない千葉市・船橋市・柏市は各市が別に扱いますが、これは規制の対象外という意味ではなく、窓口が市になるという意味です(*2)。

そして、その規制の根拠法にはこう書かれています。

宅地造成等工事規制区域内の土地の所有者、管理者又は占有者は、宅地造成等(宅地造成等工事規制区域の指定前に行われたものを含む)に伴う災害が生じないよう、その土地を常時安全な状態に維持するように努めなければならない(宅地造成及び特定盛土等規制法 第22条第1項・*3)

括弧の中が肝です。区域に指定される前に造られた擁壁も含まれます。 30年前に前の持ち主が造った擁壁でも、買った瞬間から、維持する側は自分になります。

今日は、内見のときに擁壁のどこを見るかを3点だけ書きます。

1. 「潜在債務」と呼ぶのは、命令が所有者に出るからです

擁壁が危ないと判断されたとき、都道府県知事が工事を命じられる相手は、法律にこう書かれています。

当該宅地造成等工事規制区域内の土地又は擁壁等の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置若しくは改造(中略)のための工事を行うことを命ずることができる(同法 第23条第1項・*3)

造った人ではなく、今持っている人です。第2項に「原因行為者に行わせることが相当と認められ、かつ土地所有者等に異議がないとき」は原因行為者に命じられるという道もありますが、条件が重なったときの話で、原則は所有者に来ます。

つまり擁壁は、価格には乗らないのに、いつか支出として現れる可能性のあるものです。私はこれを潜在債務と呼んでいます。だから内見では、建物より先に擁壁を見ます。

2. 見るべき3点

点1|まず「型」を見る(点検できる型かどうかが先)

国土交通省は住民向けに「我が家の擁壁チェックシート(案)」を公開しています(*4)。ここに、意外な入口があります。

次の4つの型は、採点の対象外です。

  • 空石積み擁壁(野面石積み・玉石積みなど)
  • 増積み擁壁(古い擁壁の上に足したもの)
  • 二段擁壁
  • 張出し床板付擁壁

対象外というのは「安全だから省いた」ではありません。チェックシートにはこう書かれています。「もし含まれていれば、本来、宅地の擁壁として適さないものです。現在、変状がない場合でも構造上の問題について専門家に相談することをお勧めします」(*4)。

採点する前に、採点していい型かどうかを見る。ここが最初の分かれ道です。

見分けに使える数字も載っています。コンクリートの擁壁は正面しか見えないので重力式か鉄筋コンクリートL型か分かりにくいのですが、天端(てんば=擁壁の上端)の幅が40cm前後なら重力式、20〜30cmなら鉄筋コンクリートL型が特徴、とされています(*4)。メジャー1本で足ります。

なお、高さ1m以下の擁壁はチェックの対象外、クラックは幅1mm以上のものだけを数える、という前提も明記されています(*4)。ここを外すと、点数が実態と合わなくなります。

点2|次に「水」を見る(法令の数値が、そのまま点検基準になっている)

チェックシートの最初の項目は水抜き穴です。そして配点の一番重い状態が、こう書かれています。

水抜き穴が設置されていない。(または水抜き穴が3m²に1ヶ所以上・水抜き穴の内径75mm以上を満たしていない状況にある。)……2.0点(*4)

この数字は、住民向けに作られた目安ではありません。法令の技術基準そのものです。

その裏面の排水を良くするため、壁面の面積三平方メートル以内ごとに少なくとも一個の内径が七・五センチメートル以上の陶管その他これに類する耐水性の材料を用いた水抜穴を設け、かつ、擁壁の裏面の水抜穴の周辺その他必要な場所には、砂利その他の資材を用いて透水層を設けなければならない(同法施行令 第12条・*5)

つまり水抜き穴を数えるという行為は、その擁壁が基準どおりに造られているかを、素人が現地で確かめられる数少ない項目です。穴の数と直径。それだけです。

あわせて見るのは、表面が常に湿っていないか、水がしみ出していないか、擁壁の上の排水溝がずれたり壊れたりしていないか(*4)。水は、擁壁を壊す側の主役です。

点3|最後に「書類」を見る(高さ2m超なら、書類は必ずあるはずです)

ここが一番使えます。

高さが2mを超える擁壁は、建築基準法上の「工作物」です。

高さが二メートルを超える擁壁(建築基準法施行令 第138条第1項第5号・*6)

この指定を受けた工作物は、建築基準法第88条により確認申請などの規定が準用されます(*6)。一方で、盛土規制法などの許可を受けなければならない工事で造る擁壁は、この確認申請の規定は適用されません(建築基準法 第88条第4項・*6)。二重に手続きさせない仕組みです。

裏返すと、こうなります。2mを超える擁壁は、確認申請か、造成の許可か、どちらかの書類が残っているのが本来の姿です。 どちらも見当たらないなら、その理由を聞く価値があります。

そして、書類は自分で取りに行けます。建築計画概要書は、建築基準法第93条の2で「閲覧の請求があつた場合には、これを閲覧させなければならない」と定められた書類です(*8)。所有者でなくても見られます。建築台帳記載事項証明書のほうは自治体が独自に発行しているものなので、窓口の名称や様式は市区町村ごとに違います。

概要書には配置図が付いていることがあり、そこに擁壁が描かれていることがあります。あわせて公図と地積測量図を見れば、その擁壁が自分の敷地の中にあるのか、隣地のものなのか、境界の上に乗っているのかを確かめる出発点になります。

3. 採点は「合計」ではなく「最大点」です

チェックシートの総合評価は、周辺環境条件のA(水抜き穴・水のしみ出し・排水施設の3項目)と、擁壁変状のB(クラック・水平移動・不同沈下・出隅部の開き・ふくらみ・傾斜/折損)を足したものです。

ただしAもBも、その中の項目を足すのではなく、「最大点」を採ります(*4)。判定は3段階です。

総評点評価判定
5.0点未満○現状でほぼ安定した宅地擁壁です
5.0点以上 9.0点未満△やや不安定な宅地擁壁です
9.0点以上×危険性が高い宅地擁壁です

最大点を採る設計なので、軽い項目をいくつ足しても点は伸びません。逆に、重い変状が1つあれば、それだけで判定が決まります。

石積み・コンクリートブロック積みの擁壁で、「全体が明らかに前傾(後傾)し、かつ途中に折損がみられる」は9.0点。ほかの項目が全て0点でも、これ1つで×に届きます(*4)。

チェックシート自体も「安全と判定されても日常の点検を続けられることが、安全度が低いと判定される場合はより詳細な調査をされることが、適当」と書いています(*4)。素人の採点は入口であって、結論ではありません。△と×は自治体に相談する、というのが本来の使い方です。

4. 重要事項説明に、擁壁の状態は出てきません

不動産の重要事項説明で説明義務があるのは、宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3で、第1号が造成宅地防災区域、第2号が土砂災害警戒区域です(*7)。区域の内か外か、という形で説明されます。

これは土砂災害警戒区域の記事で見たのと同じ構造です。区域の内外は書類に出るのに、目の前の擁壁が何点なのか、誰の持ち物なのかは、どの欄にも出てきません。

区域外だから安心、とは読めない。私が擁壁を自分の目で見るのは、書類がそこを担当していないからです。

5. 私の物件では

私は千葉県で戸建てを3棟貸しています。2026年8月に4棟目として検討した物件では、売主側から出てきた書類のなかに建築計画概要書がありました。その配置図に、「擁壁 平成4年12月27日施工済」という注記が2箇所入っていました。

施工年月日が書類から分かる。これは大きいことでした。逆算すると築33年です。

そして最後まで埋まらなかったのが、その擁壁が誰のものかでした。敷地の中なのか、隣地なのか、境界の上なのか。ここが決まらないと、直すときに誰がいくら払うのかが決まりません。この物件は結局、別の理由(区域と駅距離)で見送りましたが、擁壁の所有区分が最後まで残ったことは記録に残しました。

もう1棟については、土砂災害警戒区域の外ですが、区域の境界まで6mしか離れていません。区域の内外という線と、斜面までの実際の距離は、別のものです。

今日の1歩

擁壁の型を1つだけ見てください。 空石積み・増積み・二段・張出し床板付のどれかに当たっていないか。それだけです。

当たっていなければ、次はメジャーを持って天端の幅を測り、水抜き穴を数える。当たっていたら、点数を付ける前に自治体の窓口に相談する。順番はそれで足ります。

家の耐震は年代で見分けがつきます(1981年より2000年を見る)。擁壁は年代では分かりません。型と、水と、書類。 見るところが違うだけです。


出典

  1. 千葉県「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」(令和7年5月26日に県内全域を宅地造成等工事規制区域として指定・規制開始)https://www.pref.chiba.lg.jp/tokei/kaihatsukoui/moridokisei.html
  2. 宅地造成及び特定盛土等規制法 第4条第1項(指定都市又は中核市の区域内の土地については、それぞれ指定都市又は中核市が行う旨)/千葉市は指定都市、船橋市・柏市は中核市。e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/336AC0000000191/
  3. 宅地造成及び特定盛土等規制法 第22条(土地の保全等)・第23条(改善命令)。e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/336AC0000000191/
  4. 国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_tk_000067.html (本文PDF: https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001466510.pdf )
  5. 宅地造成及び特定盛土等規制法施行令 第12条(擁壁の水抜穴)。e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/337CO0000000016/
  6. 建築基準法 第88条(工作物への準用)/建築基準法施行令 第138条第1項第5号(高さが二メートルを超える擁壁)・第142条(擁壁の構造)。e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 / https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
  7. 宅地建物取引業法施行規則 第16条の4の3第1号・第2号。e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50004000012
  8. 建築基準法 第93条の2(書類の閲覧)。e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
  9. 国土交通省「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」(令和4年4月)https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_tk_000069.html

※本記事は制度と公開資料の読み方をまとめたものです。個別の擁壁の安全性の判断は、自治体の窓口または専門家にご相談ください。