困ってから調べるの、遅いです。
賃貸で穴を開けずにやる耐震(突っ張り棒1本は、国の資料では足りていない)(イメージ)2個で1セット東京消防庁が示す、ネジを打てない場合の家具転倒防止。ストッパー式(もしくは粘着マット式)とポール式を2つ組み合わせると、最も効果の高いL型金具と同等になる。単独使用は大きな家具には適さないと明記されている(東京消防庁「自宅の家具転対策」「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」)
住まい編

賃貸で穴を開けずにやる耐震(突っ張り棒1本は、国の資料では足りていない)

先回り大家最終確認 2026-09-04

本記事は広告(アフィリエイトリンク)を含みます。

東京消防庁の「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」(令和6年1月)に、こう書かれています。

※ ストッパー式やマット式の単独使用は、大きな家具の場合には一般的に適しません(*1)

そして同庁のサイトには、ネジを打てない場合の答えが1文で出ています。

ストッパー式器具(もしくは粘着マット式)とポール式器具を2つ組み合わせることで、一番効果の高いL型金具と同等の効果を発揮します(*2)

2個で1セットです。賃貸で「壁に穴を開けられないから」と突っ張り棒を1本だけ買って終わりにしている人は、いま半分のところで止まっています。しかも、その1本の置き方にも決まりがあります。今日は、穴を開けない側の道を最後まで通すところと、それでもネジを打ちたいときに国が用意している書式を並べます。

なお、どこまでが通常損耗で、どこからが借主負担になり得るのか(画鋲の穴とネジ穴の線引き、退去時の負担範囲と経過年数)は、遮光・遮音・断熱を賃貸でやるに書きました。この記事はその先、具体的にどう留めるかだけを扱います。

1. 置き方には決まりがある(買う前に読む4行)

同じハンドブックから、そのまま引きます(*1)。

  • ポール式器具は、家具の両端の側板部の壁側奥に設置します
  • ポール式器具は、できるだけ奥に取付けます
  • ストッパー式器具は、家具の端から端まで敷きます
  • ポール式器具は、奥行きのない家具や天井との間隔が大きい場合には不向き

よくある置き方と、ひとつずつずれています。

真ん中に1本ではなく、両端に2本。 ポール式は家具の側板(左右の板)の上に立てます。天板の真ん中は、家具側の受けが弱い場所です。

手前ではなく、奥。 家具は前に倒れます。突っ張り棒が手前にあると、家具は棒を支点にして回りやすくなります。奥に入れて、倒れる動き自体を止めます。

ストッパーは端から端まで。 前脚の下に小さいものを2枚、ではありません。家具の前側を持ち上げて後ろへ傾ける役目なので、幅いっぱいに敷きます。

そもそも向いていない家具がある。 奥行きが浅い家具(薄い本棚など)と、天井との隙間が大きい家具です。この2つに当てはまるなら、ポール式に期待しすぎないでください。

2. 木造の戸建てには、もう1つ落とし穴がある

ポール式について、ハンドブックは条件を付けています。

ポール式器具を取り付ける時は、天井に十分な強度(マンションのコンクリート天井など)があることを確認します(*1)

例に挙がっているのがマンションのコンクリート天井、という点に注目してください。突っ張り棒は、天井が強いことを前提にした器具です。木造の戸建てや、上階が居室になっていない部屋の天井は、石膏ボードや化粧板で、突っ張った力を受けきれるとは限りません。和室の竿縁天井については、竿縁に掛かるように、と図で示されています(*1)。

強度が足りない場合の対処も書かれています。

天井に強度がない場合には、天井側に家具の幅以上の板で補強し、更にポール式と当て板をネジで固定すると効果が高くなります(*1)

ここでのネジは板とポール式器具を留めるもので、天井に打つ話ではありません。板を1枚渡して、力を点ではなく面で受けさせる、という発想です。

賃貸の戸建てで突っ張り棒が頼りなく感じるなら、器具ではなく天井の受け方を疑ってください。 集合住宅と木造戸建てで前提が違うところは、あまり書かれていません。私が住まいの記事を戸建て寄りに書いているのは、ここに穴があるからです。

3. それでもネジを打ちたいとき、国は書式まで用意している

「大家に聞く」というと、頼み込む場面を想像するかもしれません。実際には、手続きとして用意されています。

国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」第8条第2項は、こうです。

乙は、甲の書面による承諾を得ることなく、本物件の増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置を行ってはならない。(*3)

そして、その承諾を取るための書式として、「増改築等承諾書(例)」が同じ資料に収録されています。借主が上半分(何を、どこに、どうしたいか)を書いて2通提出し、貸主が承諾するなら下半分に署名して1通返す、という形です。注記には「増改築等の概要を示した別紙を添付する必要があります」とあり、貸主が条件を付けたい場合の「なお、」の欄まで最初から切ってあります(*4)。

つまり国の想定では、貸主の承諾は口約束ではなく紙で残すものです。

家具固定なら、別紙に書くのは3行で足ります。

  1. どの部屋の、どの家具に(例:寝室の高さ180cmの本棚1本)
  2. 何を、どこに、何本(例:L型金具2個。壁の下地(間柱)に木ネジ)
  3. 退去のときにどう戻すか(例:金具を外して穴を補修する。原状回復の扱いを先に決めたい)

メールで送れば、そのまま別紙になります。口頭で「いいですよ」と言われたときも、その返信を文字で残してください。(費用の持ち方や不具合の窓口まで含めた聞き方は、遮光・遮音・断熱を賃貸でやるの「大家に聞くとき、先に決めておく3つ」に書いています。)

4. 貸す側は、この相談の何を見ているか

私は千葉県で戸建てを3棟、貸しています。以下は私個人の判断基準で、すべての貸主が同じ結論になるという意味ではありません。

家具固定の相談で見るのは、だいたい2つです。

ひとつ、建物の構造に手を入れないか。 壁の下地(間柱)に木ネジ、という範囲なら構造をいじる工事ではありません。壁を抜く、造作を新設する、といった話とは別ものです。

ふたつ、戻し方が決まっているか。 上の3行目です。ここが書いてあると、判断が止まりません。

逆に困るのは、聞かれないまま黙って打たれることです。退去のときに初めて見つかると、事情が分からないまま精算の話になります。先に一言あれば、条件を付けて承諾するほうへ倒せます。

もうひとつ。ガイドラインより重い負担を借主に課す特約は、次の3つを満たしていないと効力を争われうる、と国は書いています(*5)。

  1. 特約の必要性があり、暴利的でないなどの客観的・合理的な理由があること
  2. 借主が、通常の原状回復義務を超えた義務を負うと認識していること
  3. 借主が、その義務負担の意思表示をしていること

契約書に一行あるだけで自動的に何でも通る、という作りにはなっていません。ただし個別の判断は契約書の文面と事情によります。揉めそうなときは、自治体の住宅相談窓口や消費生活センター、弁護士等へ相談してください。

契約前なら、もう1つ先回りができます。ガイドラインの様式には「原状回復工事施工目安単価」という表があり、壁(クロス)の㎡単価などを契約書に書き添えておくことが推奨されています(*5)。「クロスの㎡単価を書いてもらえますか」と契約前に聞ける、ということです。聞く人はほとんどいません。

今日やること(3行)

  1. 寝ている場所に倒れてくるいちばん背の高い家具を1つ決める(選び方は家具固定を1箇所だけやるならどこか)
  2. ネジを打てないなら、ストッパー式(または粘着マット式)+ポール式の2個併用。ポールは両端・奥、ストッパーは端から端まで
  3. 木造の戸建てなら、突っ張る前に天井を見る。強度が怪しければ、板を1枚渡して面で受けさせる

近年の大きな地震では、けが人の約3割から5割が家具類の転倒・落下・移動が原因です(*6)。寝室の置き方そのものを変える話は寝室に置いていいものと置いてはいけないものに書きました。

賃貸だから、は理由になりません。穴を開けない道は、国の資料の中にちゃんと最後まで書いてあります。困ってから調べるの、遅いです。


この記事の道具箱

以下は広告リンクです。選ぶ基準は本文と出典のとおりで、報酬額を理由に順位を変えることはしません。

この記事の道具箱をROOMでまとめて見る

出典

  • *1 東京消防庁「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」令和6年1月発行、「家庭用家具の転倒・落下・移動防止対策」の章=「ポール式器具は、家具の両端の側板部の壁側奥に設置します」「ポール式器具は、できるだけ奥に取付けます」「ポール式器具を取り付ける時は、天井に十分な強度(マンションのコンクリート天井など)があることを確認します」「天井に強度がない場合には、天井側に家具の幅以上の板で補強し、更にポール式と当て板をネジで固定すると効果が高くなります」「ポール式器具は、奥行きのない家具や天井との間隔が大きい場合には不向きです」「ストッパー式器具は、家具の端から端まで敷きます」「※ ストッパー式やマット式の単独使用は、大きな家具の場合には一般的に適しません」/竿縁天井の場合は竿縁に掛かるようにする旨の図。https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/elib/kagutenhandbook.html
  • *2 東京消防庁「自宅の家具転対策」=「最も効果の高い家具転対策器具はネジで固定するもの(L型金具等)です」「ストッパー式器具(もしくは粘着マット式)とポール式器具を2つ組み合わせることで、一番効果の高いL型金具と同等の効果を発揮します」。https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/bou_topic/kaguten/measures_house.html
  • *3 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」平成23年8月 参考資料「賃貸住宅標準契約書」第8条第2項(禁止又は制限される行為)。https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
  • *4 同資料 参考資料《承諾書(例)》(3)増改築等承諾書(例)(賃貸住宅標準契約書第8条第2項関係)=借主が2通提出し、貸主が承諾する場合は1通を返還する形式。注記「増改築等の概要を示した別紙を添付する必要があります」「承諾に当たっての確認事項等があれば、「なお、」の後に記載してください」。
  • *5 同資料 第1章=【賃借人に特別の負担を課す特約の要件】①特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること ②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること ③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。および別表3「契約書に添付する原状回復の条件に関する様式」3 原状回復工事施工目安単価(壁(クロス)=㎡単位ほか)。なお同ガイドラインは「あくまで負担割合等についての一般的な基準を示したものであり、法的な拘束力を持つものでもない」と明記している。
  • *6 東京消防庁「地震に備える〜家具類の転倒・落下・移動防止対策〜」=「近年発生した大きな地震によるけが人のうち、約3割から5割の人が家具類の転倒・落下・移動が原因でケガをしています。」https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/jishin/contents02_2.html

本記事は公的資料の一般的な解説です。個別の契約の解釈や退去時の精算については、契約書の文面と個別の事情によって結論が変わります。判断に迷うときは、自治体の住宅相談窓口、消費生活センター、または弁護士等の専門家へご相談ください。