0円弁護士等の登録支援専門家による手続支援の費用(自然災害債務整理ガイドライン)住宅ローンが残ったまま家が壊れたら、最初に相談するのは市役所ではなく「いちばん多く借りている金融機関」です(自然災害債務整理ガイドライン)
家が全壊しても、住宅ローンの契約はそのまま残ります。建物がなくなっても、借りたお金の返済は続きます。
その「壊れた家のローン」を、破産をせずに、減らしたり免除してもらったりする道が用意されています。「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」です(*1)。平成28年4月から使われていて、運営機関が公表している令和8年6月末時点の数字では、自然災害で債務整理が成立したのは679件です(*2)。
制度があること自体、あまり知られていません。入口がどこか、何が残せるのか、順に見ます。
破産との違いは「信用情報に載らない」ことです
ローンが返せなくなったときの法的な手続きは、破産と個人再生です。どちらも個人信用情報に登録され、しばらく新しい借入れやクレジットカードが作れなくなります(*3)。家を建て直そうとしている被災者にとって、これは大きな壁です。
ガイドラインを使った債務整理は、金融機関との話し合いで減免を決め、最後に簡易裁判所の特定調停で確定させる形です。そして、債務整理をした事実を信用情報機関に報告・登録しないと、ガイドライン本文に書かれています(*4)。
もう1つの違いは、手伝ってくれる専門家です。弁護士・公認会計士・税理士・不動産鑑定士の「登録支援専門家」が、無料で手続きを支援します(*5)(*3)。ただし、特定調停を申し立てる費用は本人の負担です(*6)。
使えるのは「災害救助法が適用された災害」です
対象になる災害は、平成27年9月2日以降に災害救助法が適用された自然災害(と東日本大震災)です(*1)。適用期限は設けられておらず、基本的に恒久的な仕組みです(*7)。
運営機関の一覧(令和8年9月7日現在)を見ると、大きな地震だけでなく、大雨・大雪・林野火災まで並んでいます。令和8年8月の千葉豪雨も入っています(*8)。
そして、ここが被災者生活再建支援金と大きく違う点です。支援金は「その市町村で全壊が10世帯以上」のような災害の規模で法律が動くかどうかが決まりますが、ガイドラインは運営機関が「災害救助法適用市町村以外にお住まいの方も対象になります」と明記しています(*8)。
災害の影響も、家が壊れた場合に限りません。Q&Aは「勤め先が被災したことにより失業したこと又は給料が下がったこと」も間接的な影響として挙げています(*9)。証明には罹災証明書などを出しますが、合理的な事由で公文書がないときは、陳述書で代えることもできます(*9)。
条件は「災害のせいで、返せない・返せなくなるのが確実」です
ガイドラインが挙げる要件は7つあります(*1)。読者が最初に確かめるべきなのは、次の3つです。
- 災害の影響で、ローンを返せない、または近い将来返せなくなることが確実と見込まれる。 特定のローンだけでなく、借金全般が約束どおり返せない状態を指します(*10)。
- 災害の前に、返済の遅れなどで「期限の利益」を失う行為がなかった。
- 財産の状況を正直に開示している。
1つ目の判断で大事な一文がQ&Aにあります。被災者生活再建支援金・災害弔慰金・災害障害見舞金は、返済能力を判断するときの資産に含めるのは適当ではないとされています(*10)。支援金を受け取ったから「返せるでしょう」とは扱わない、ということです。
入口は「元金がいちばん多い借入先」です
手続きは7段階です(*11)。
- 手続着手の申出=借りている元金がいちばん多い金融機関(銀行に限りません)に、ガイドラインを使いたいと申し出る。
- 登録支援専門家の依頼=同意が出たら、地元の弁護士会などを通じて運営機関に依頼する。
- 債務整理の申出=全部の借入先に、財産目録などを付けて申し出る。
- 調停条項案の作成
- 調停条項案の提出・説明=借入先は1か月以内に同意するか回答する。
- 簡易裁判所へ特定調停の申立て=原則として本人が出頭する。
- 調停条項の確定
市役所で罹災証明を取るのとは、窓口がまったく別です。手続着手の申出を受けた金融機関は、10営業日以内に書面で同意か不同意かを答え、要件を満たさないことが明白な場合を除いて不同意にしてはならず、不同意ならその理由を書くことになっています(*12)。
3の申出をした時点から「一時停止」が始まり、返済や督促が止まります(*11)。その代わり、この期間は財産を勝手に処分したり、新しく借金をしたり、一部の借入先にだけ返したりはできません(*13)。
家財道具と支援金は手元に残せます
減免を受けるときは、原則として財産を処分して返済に充てます。ただし、全財産を手放すわけではありません。Q&Aは、破産で「自由財産」とされるものを残せるとして、生活に欠かせない家財道具などの差押禁止財産、上限のある現預金を挙げています(*14)。
被災者生活再建支援金・災害弔慰金・災害障害見舞金も、基本的に手元に残せると考えられています(*14)。義援金も、令和3年1月1日以後の自然災害で交付されたものは法律で差押禁止になっています(*8)。
処分の代わりに「公正な価額」に相当する額を払えば、その財産を手元に残すこともできます(*14)。
保証人には、原則として請求しません
親や配偶者がローンの保証人になっている場合です。ガイドラインは、保証人の責任の度合いや生活実態から見て保証履行を求めることが相当と認められる場合を除き、個人の保証人には保証履行を求めないとしています(*15)。
「返済を待ってもらう」とは別の道です
被災したとき、金融機関がまず案内するのは返済の猶予かもしれません。たとえば住宅金融支援機構(旧公庫融資)の災害特例は、返済の据置1〜3年、据置期間中の金利引下げ0.5〜1.5%、返済期間の延長1〜3年です(*16)。
ただしこれは払う時期を後ろにずらす仕組みで、元金は減りません。据置の年数を決める「り災割合」も、被災前後の収入の落ち方と復旧の自己資金から計算する物差しで、罹災証明の損害割合とは別物です(*16)。物差しが違う話は地震保険の記事でも書きました。
猶予で乗り切れるのか、減免が必要なのか。その分かれ目を、1人で決めないために登録支援専門家がいます。
気をつけること:「手続きを代行します」と言う業者
運営機関のチラシには、金融庁・財務局・運営機関は他の事業者に業務を委託しておらず、支援と称して報酬を求める悪質業者に注意するよう書かれています(*6)。専門家は、運営機関から委嘱される人です。
今日やること(3行)
- 自分と家族のローンを1枚に書き出し、「元金がいちばん多い借入先」に丸を付ける。 被災したとき、最初に電話する相手です。
- ローンの保証人になっている人・なってもらっている人の名前を、同じ紙に書く。
- この記事の名前「自然災害債務整理ガイドライン」を、その紙の端にメモしておく。 窓口で名前を出せば話が早くなります。
この記事は、ガイドライン本文とQ&A、運営機関と公的機関の公表資料を並べたものです。実際に使えるか、どこまで減免されるかは、借入先の同意と個別の事情によります。具体的な相談は、借入先の金融機関にしてください。借入先が銀行なら、全国銀行協会相談室でも問い合わせを受け付けています(*3)。
出典
- *1 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン研究会「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(平成27年12月・令和2年10月改正)第1項(目的=東日本大震災又は平成27年9月2日以後に災害救助法の適用を受けた自然災害)・第3項(1)①〜⑦(対象となり得る債務者の要件) https://www.dgl.or.jp/guideline/pdf/disaster-guideline.pdf
- *2 一般社団法人 東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「利用状況」(令和8年6月末時点)=自然災害案件 登録支援専門家に手続支援を委嘱した件数1,541件・債務整理成立件数679件 https://www.dgl.or.jp/utilization/
- *3 政府広報オンライン「大規模な自然災害でローンの返済が困難になった方へ ご利用ください。『自然災害債務整理ガイドライン』」=破産・再生手続は個人信用情報として登録される/国の補助により登録支援専門家が無料で手続きを支援/全国銀行協会相談室での問い合わせ https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201607/1.html
- *4 同ガイドライン 第10項(2)=「対象債権者は、当該対象債務者が債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報(代位弁済に関する情報を含む。)を、信用情報登録機関に報告、登録しないこととする」
- *5 同ガイドライン 第4項(1)(2)(弁護士、公認会計士、税理士及び不動産鑑定士の登録支援専門家。減免を要請する内容の調停条項案に係る一部業務は弁護士に限る)
- *6 同運営機関 チラシ「大規模災害に被災された皆さまへ」(2026.7)=手続支援を無料で受けられる/特定調停手続の利用に関する費用は債務者の負担/金融庁、財務局及び運営機関が他の事業者に本件事業等を委託することはない・報酬を求める悪質業者等への注意 https://www.dgl.or.jp/guideline/pdf/disaster-gl_leaf.pdf
- *7 同運営機関「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインQ&A」Q.10-4(将来的な適用期限は設けておらず、基本的には恒久的な措置/適用開始は平成28年4月1日) https://www.dgl.or.jp/guideline/pdf/disaster-guideline_qa.pdf
- *8 同運営機関「被災された皆さまへ」(令和8年9月7日現在)=「本ガイドラインは、災害救助法適用市町村以外にお住まいの方も対象になります」/平成27年9月2日以降に災害救助法が適用された自然災害の一覧(「令和8年8月13日からの大雨に伴う災害(令和8年8月千葉豪雨)」を含む)/注1=令和3年1月1日以後に発生した自然災害に関して交付を受けた「自然災害義援金」は差押禁止 https://www.dgl.or.jp/victim/
- *9 同Q&A Q.3-1(災害の影響の直接的なもの・間接的なもの/り災証明書、被災証明書等/合理的な事由により公文書等がない場合は陳述書に必要事項を記載して提出することも可能)
- *10 同Q&A Q.3-2(「弁済することができない」=破産手続における支払不能、「近い将来…確実と見込まれる」=民事再生手続における支払不能のおそれに相当/被災者生活再建支援金、災害弔慰金・災害障害見舞金を債務者の資産に含めて返済能力を判断することは適当ではない)
- *11 同運営機関「手続の流れ」(手続着手の申出〜調停条項の確定の7段階/債務整理の申出後は返済や督促は一時停止/金融機関等は1カ月以内に回答/特定調停には原則として債務者本人が出頭) https://www.dgl.or.jp/flow/
- *12 同ガイドライン 第5項(1)(主たる債権者は手続着手の申出を受け付けてから10営業日以内に同意又は不同意を書面で表示/要件のいずれかに該当しないことが明白である場合を除いて不同意を表明してはならず、不同意の場合は理由を明記)
- *13 同ガイドライン 第7項(1)①②(一時停止の期間中、対象債務者は資産を処分してはならず新債務を負担してはならない/一部の対象債権者に対する弁済等を行ってはならない)
- *14 同Q&A Q.8-9(破産手続において「自由財産」と扱われる財産=差押禁止財産(生活に欠くことのできない家財道具等)・現預金(上限あり)等を手元に残すことが可能/被災者生活再建支援金、災害弔慰金・災害障害見舞金は基本的に手元に残すことが可能/公正な価額に相当する額を弁済する場合はその財産を手元に残すことが可能)
- *15 同ガイドライン 第8項(5)(保証履行を求めることが相当と認められる場合を除き、個人の保証人に対する保証履行は求めない)
- *16 住宅金融支援機構「地震、津波、噴火、暴風雨又は洪水により被災された方への返済方法変更(機構(旧公庫)融資の場合)」=返済金の払込みの据置1年〜3年/据置期間中の金利引下げ0.5%〜1.5%減/返済期間の延長1年〜3年/り災割合=災害発生の日前1年以内の収入額から災害発生日以後1年間の収入予定額を差し引いた金額に、融資住宅等の復旧に要する自己資金と治療費を加えた金額が、災害発生の日前1年以内の収入に占める割合。【フラット35】の返済方法変更は別ページ https://www.jhf.go.jp/loan/hensai/hisai_goannai.html