困ってから調べるの、遅いです。
地震のあと、眠れる家に戻すまでの順番(玄関の赤い紙は「全壊」の意味ではありません)(イメージ)22,833 / 57,570熊本地震で判定を受けた57,570棟のうち、緑の「調査済」は22,833棟=約4割
眠り編

地震のあと、眠れる家に戻すまでの順番(玄関の赤い紙は「全壊」の意味ではありません)

先回り大家最終確認 2026-09-08

熊本地震のあと、応急危険度判定を受けた建物は57,570棟でした。そのうち緑の「調査済」は22,833棟。残りの約6割には、黄色い「要注意」(19,029棟)か、赤い「危険」(15,708棟)の紙が貼られています(*1)。

赤い紙を見た人の多くが、そこで「この家はもう駄目だ」と読みます。国の運用指針は、そう読まないでくださいと明文で書いています。

1. 赤い紙は「いま入るな」であって、「この家は終わり」ではない

内閣府の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(令和8年6月版)の総則10に、こうあります(*2)。

応急危険度判定で「危険」と判定された住家が、必ずしも「全壊」、「大規模半壊」、「中規模半壊」又は「半壊」と認定されるとは限らない。

そして同じ段落の1つ前に、もっと大事な一文があります。

したがって、落下物の除去等、適切な応急措置が講じられれば判定が変更されることもあり得る。

赤は動きます。 応急危険度判定は、余震で倒れないか・何かが落ちてこないかを見て、当面その建物を使ってよいかを判定するものです。目的は二次災害の防止であって、家の値打ちを決めることではありません。判定結果は緑(調査済)・黄(要注意)・赤(危険)の3段階で、建物の出入口など見えやすい場所に貼られます。通りかかる歩行者にも危険が分かるようにするためです(*1)。

つまり、あの紙が答えているのは「この家に、いま、入っていいか」だけです。「眠れる家に戻す」という作業は、その紙の色を1段ずつ動かしていく作業になります。

2. 向こうから来る紙と、自分から取りに行く紙は別物

地震のあと、住まいをめぐる紙は2種類出てきます。動き方が正反対なので、ここを混ぜると片方を取りそびれます。

(1)応急危険度判定=向こうから来る。 原則として被災した市町村の災害対策の一環として行われ、判定にあたるのは知事の認定を受けた「被災建築物応急危険度判定士」です。民間の判定士は、自治体からの要請を受けた防災ボランティアとして参加します(*1、*3)。こちらから申し込む制度ではありません。

(2)罹災証明書=自分から取りに行く。 根拠は災害対策基本法第90条の2第1項です(*4)。

市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面(略)を交付しなければならない。

「申請があつたとき」です。 市町村は遅滞なく調べて出す義務を負いますが、それは申請が起点になっています。避難や片づけに追われて申請を出さないままだと、調査そのものが始まりません。

しかも運用指針は、この2つを混同させないことを行政側の責務として書いています(*2)。

被災者にこれらの判定・調査の混同が生じないよう、それぞれの判定・調査の実施主体が被災者に明確に説明することが重要である。

わざわざ指針に書かれている、ということは、現場で実際に混ざるということです。

3. 片づける前に写真を撮る理由も、指針に書いてある

罹災証明のための調査(住家の被害認定調査)は、部位ごとの損傷率を積み上げて「損害割合」を出し、次の6段階で判定します(*2)。

損害割合判定
50%以上全壊
40%以上50%未満大規模半壊
30%以上40%未満中規模半壊
20%以上30%未満半壊
10%以上20%未満準半壊
10%未満準半壊に至らない(一部損壊)

この調査は、当然ながら被害が残っている状態を見に来ます。ところが被災した側は、寝る場所を作るために先に片づけます。ここが噛み合いません。

指針の総則5には、その噛み合わなさへの答えが先回りして書かれています(*2)。

片付け、修理、解体、積雪等により十分に確認できない場合は、被災者から提供を受けた写真や被災者への聞き取り結果により損傷状況を把握することも考えられる。

「被災者から提供を受けた写真」は、制度の中に用意された代替手段です。 写真を活用した判定方法は平成30年の改定で正式に追加され、令和8年版でも「写真等を活用した判定について」として残っています(*2)。

だから順番はこうなります。片づけない→写真→片づける。 撮るときは、部屋ごとの全景を1枚、損傷している部分の寄りを1枚、その損傷が家のどこなのか分かる引きを1枚。同じ場所で3枚1組にしておくと、あとから説明の手間が消えます。スマホの日付情報は消さないでください。

4. 電気を戻すのは、片づけの前でも後でもない

寝る場所を作る前に、電気を挟みます。地震のあとの火災は、揺れた瞬間ではなく電気が戻ってきたときに起きるからです。倒れた電気ストーブが可燃物の上で再通電する、傷ついた配線が復電時に発熱する——この2つが典型例として国の資料に挙がっています。詳しくは感震ブレーカーで通電火災を止めるに、後付け3方式の実費まで書きました。

家に戻るとき、順番はこうなります。

  1. ブレーカーを落としたまま、家の中を見る(明かりは懐中電灯やランタン)
  2. 倒れている暖房器具・家電をコンセントから抜く
  3. 焦げ跡・水濡れ・ガラス片の上を通っている配線がないか見る
  4. そのうえでブレーカーを上げ、しばらく家にいる状態で異常が出ないか確かめる

「異常が出ないか確かめる」を、寝ながらやってはいけません。眠る前にこの段を終わらせる、が順番の意味です。

5. 「眠れる家」は、家全体ではなく1部屋から戻す

ここからが本題です。地震のあとの家を、全部きれいにしてから寝ようとすると、いつまでも寝られません。国が避難所に求めている最低ラインを、そのまま自宅の1部屋に当てはめるのが最短です。

避難所運営のガイドラインが求めている水準は「屋根の下に入れること」ではなく、床から体を離して横になれることでした(避難所と車中泊で、最初に壊れるのは睡眠)。自宅でも同じで、必要なのは次の4つだけです。

順番として大事なのは、この1部屋を作るのは、家の片づけよりも先だということです。眠れないまま片づけを続けた結果が、災害関連死の統計に出てきます(直接死より多い「災害関連死」)。片づけは翌日でも進みますが、睡眠は繰り越せません。

そして在宅避難を選ぶなら、この1部屋の外側に備蓄が要ります。国の定義では、在宅避難者とは「自らの備蓄を利用して避難生活を送る人」です(避難所に行かない備え=在宅避難で必要になるもの)。

6. 大家が同じ順番を使っている理由

貸家を持っていると、退去や修繕のたびに「どこから手を付けるか」を毎回決めることになります。2026年6月にも、千葉県の戸建て1棟で給湯器の交換と雨漏りの修理をしました。

そこで毎回同じ結論になるのが、先に直すのは「見た目」ではなく「その部屋で人が過ごせるか」を決めている設備のほう、という順番です。壁紙の汚れは後回しにできますが、湯が出ないのと雨が落ちてくるのは後回しにできません。

地震のあとの自宅で言えば、眠れる1部屋が「湯と雨」にあたります。散らかった居間は壁紙です。順番を間違えると、体力のほうが先に切れます。

7. まとめ=順番だけ持ち帰ってください

  1. 紙の色を読む(緑・黄・赤。赤は「いま入るな」であって「全壊」ではない。応急措置で変わり得る)
  2. 写真を撮る(片づける前。全景・寄り・引きの3枚1組。指針が写真を代替手段として認めている)
  3. 電気を戻す(ブレーカーを落としたまま点検→抜く→上げる→起きている間に確かめる)
  4. 眠れる1部屋を作る(ガラス片なし・床から離れる・倒れてこない・暗さと温度)
  5. 罹災証明を申請する(申請しないと調査が始まらない。応急危険度判定とは別の手続き)

片づけは、5番のあとです。

困ってから調べるの、遅いです。この5段を紙に書いて、寝室の引き出しに入れておくところまでが、今日できる先回りです。

出典

  1. 埼玉県 都市整備部 建築安全課「被災建築物応急危険度判定とは」=「判定結果は緑(調査済み)・黄(要注意)・赤(危険)の三段階で区分し、建築物の出入り口などの見えやすい場所に設置する」「この調査は地震発生後の二次災害防止のためにおこなうもので、罹災証明のための調査(被災度区分判定)とは異なることに注意してください」「応急危険度判定は、原則として被災市町村の災害対策の一環として行われますが、民間判定士については、地方公共団体からの要請による防災ボランティアとして参加していただきます」。同ページ掲載の「過去に実施された主な判定活動」表より、熊本地震(平成28年4月14日・16日/判定期間 平成28年4月15日〜6月4日)=判定人員6,819名、判定棟数57,570棟、判定結果は調査済22,833棟・要注意19,029棟・危険15,708棟。東日本大震災=98,058棟のうち調査済62,085棟・要注意23,998棟・危険11,975棟。https://www.pref.saitama.lg.jp/a1106/oukyuukikendo/oqgaiyou2.html (2026-09-08 取得)
  2. 内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」令和8年6月=総則10(p.12)「応急危険度判定で『危険』と判定された住家が、必ずしも『全壊』、『大規模半壊』、『中規模半壊』又は『半壊』と認定されるとは限らない」「したがって、落下物の除去等、適切な応急措置が講じられれば判定が変更されることもあり得る」「被災者にこれらの判定・調査の混同が生じないよう、それぞれの判定・調査の実施主体が被災者に明確に説明することが重要である」。総則5(p.5)「片付け、修理、解体、積雪等により十分に確認できない場合は、被災者から提供を受けた写真や被災者への聞き取り結果により損傷状況を把握することも考えられる」。総則6(p.11)損害割合による6区分、および「●写真等を活用した判定について」。改定履歴(p.7)「平成30年改定 写真を活用した判定方法を追加」。https://www.bousai.go.jp/taisaku/pdf/r605shishin_all.pdf (328頁・2026-09-08 取得)
  3. 千葉県「被災建築物応急危険度判定士について」=「『応急危険度判定』は、被災建築物を調査し、これらの危険性をできる限り速やかに判定し、分かりやすく表示することにより、人命に係る二次的災害を防止することを目的としています。ボランティアとしてこの応急危険度判定を行うのが『被災建築物応急危険度判定士』です」「『千葉県被災建築物応急危険度判定士』は、『応急危険度判定士認定講習会』を受講した建築士等が、知事に対し『認定申請書』を提出することで認定されます」。https://www.pref.chiba.lg.jp/kenchiku/oq-hanteishi/index1.html (更新日 令和8年7月24日・2026-09-08 取得)
  4. 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第90条の2第1項=「市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面(第四項において「罹災証明書」という。)を交付しなければならない」。e-Gov法令API(法令ID 336AC0000000223)で条文原文を取得。https://laws.e-gov.go.jp/law/336AC0000000223 (2026-09-08 取得)
  5. 通電火災の典型例および感震ブレーカーの区分=内閣府(防災担当)チラシ「感震ブレーカー等の選び方」(令和8年3月作成)ほか。当サイト「感震ブレーカーで通電火災を止める」執筆時(2026-08-18)に取得・確認したものを再掲。
  6. 避難所における寝床の水準=内閣府「避難所運営ガイドライン」(令和6年12月改定)。当サイト「避難所と車中泊で、最初に壊れるのは睡眠」執筆時(2026-08-30)に取得・確認したものを再掲。https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412hinanjo_guideline.pdf
  7. 自宅外の貸家(千葉県の戸建て)の修繕記録=2026年6月、1棟で給湯器交換および雨漏り修理を実施(業者請求書)。物件の所在地・業者名は非公開。

※本記事は公的資料の読み方をまとめたものです。建物に入ってよいかどうかの最終的な判断は、現地の応急危険度判定の結果と、お住まいの市区町村・消防の指示に従ってください。罹災証明書の申請方法・期限は市区町村ごとに異なります。保険金の支払い可否は保険会社の損害調査によるもので、罹災証明書の判定とは一致しないことがあります(*2 総則10)。