28℃環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」のコラムが示す、快適に眠れる室温の上限。同じコラムは「寝具での調節は困難なため、冷房を使用する必要があります」と書いている。一方で厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、冬については「十分に寝具を用いることで寝床内が暖かく維持された場合には、睡眠への影響は少ない」とする。国の資料は、夏は部屋を、冬は寝床の中を、直す対象にしている停電の夜、寝室は何度まで動くか(夏と冬でやることが逆)
環境省の「熱中症環境保健マニュアル2022」に、短いコラムがあります。そこにはこう書かれています。「快適に眠れる室温の上限は28℃と言われ、寝具での調節は困難なため、冷房を使用する必要があります」(*1)。
一方、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、冬について正反対の書き方をします。「冬に寝室温が低下した場合に、睡眠が悪化することを示した報告は乏しく、十分に寝具を用いることで寝床内が暖かく維持された場合には、睡眠への影響は少ないと考えられます」(*2)。
同じ「寝室の温度」の話なのに、夏は部屋を直せと書き、冬は寝床の中を直せば足りると書いている。 直す対象が入れ替わっています。
これが、停電の夜にそのまま効いてきます。冬の停電は、寝床の中で解ける。夏の停電は、寝床の中では解けません。
1. 国の資料は、夏と冬で「直す対象」を変えている
睡眠ガイド2023の温度の項は、夏と冬を分けて書いています。夏については、「夏の寝室の室温上昇時に、睡眠時間が短縮し、睡眠効率が低下することが、実生活下の調査によって報告されています。夏の寝室はエアコンを用いて涼しく維持することが重要と考えられます」(*2)。
環境省のコラムは、その理由まで書いています。人が眠るには深部体温(脳や臓器など身体の内部の温度)を下げる必要があり、その方法は皮膚の温度を上げることと、汗をかいて蒸発させることの2つ。高温多湿な環境ではその両方が妨げられるため、体温調節を維持するために覚醒してしまう。コラムはこれを「睡眠よりも体温調節が優先されるのです」と表現しています(*1)。
だから夏は、掛けるものを減らしても足りません。「寝具での調節は困難」というのは、そういう意味です。
冬は構造が違います。寝床の中の温度は寝具で作れます。だから睡眠ガイドは、冬の低い室温そのものより、寝床内が暖かいかどうかを見ています。
ただし冬には、睡眠とは別の理由で温度の下限が出てきます。同じ項にこうあります。「夜中にトイレへ行く場合や、早朝起床時に、急な寒さに曝されると、血圧が急激に上昇し、脳卒中・心筋梗塞の発症につながるおそれがあります」。そのうえで、WHOの住環境ガイドラインが冬の室温を18℃以上に維持することを推奨していることを紹介しています(*2)。
冬の18℃は、よく眠るための数字ではありません。布団から出たときの数字です。 ここを取り違えると、対策の置き場所を間違えます。
2. 数字で見ると、寝室は「屋内の熱中症」の現場
夏の側を数字で見ておきます。
総務省消防庁の確定値では、2025年(令和7年)5月から9月までの熱中症による救急搬送人員は全国で100,510人。調査を開始した平成20年以降で最も多い数でした。内訳は、高齢者(65歳以上)が57,433人で全体の57.1%、初診時の傷病程度で死亡が117人。そして発生場所は「住居」が38,292人・38.1%で最多です。次が道路の19.7%(*3)。
外より、家の中のほうが多い。 これは2025年だけの偏りではなく、令和3年から令和7年までの5年間、住居の割合は38〜40%で動いていません(*3)。
環境省のマニュアルは、その中身にも触れています。「家の中は、夜間でも昼間の熱がこもるため、寝苦しい熱帯夜の時には、高齢者は、寝ているうちに知らず知らずに熱中症になる場合があります」(*1)。さらに、夏季(7月から9月)の70歳以上の居室は若年者より室温が約2℃高く、31〜32℃に達しているという報告も紹介されています(就寝時を除く測定・*1)。
つまり、エアコンが動いている平常時ですら、住居が最多です。停電はそこから冷房を1つ取り上げる話になります。
3. 夏の停電は、「部屋」をあきらめて「体」に切り替える
環境省のマニュアルには、災害時のページがあり、そこに【停電・電力不足】屋内でエアコンや扇風機が使えないときという見出しの箇条書きが載っています。原文はこの4行です(*4)。
・涼しい服装
・風通しをよくする
・からだを冷却する
(濡れたタオルを肌に当ててうちわであおぐ、冷却グッズ、電池式扇風機、水シャワー、等)
※屋外では、直射日光を避けましょう。
室温を何℃にする、という指示が1つもありません。 停電時に国が書いているのは、部屋の温度ではなく体の冷やし方です。28℃という上限は、冷房があることを前提にした数字だからです。
体を冷やす場所も、応急処置の項で具体的に指定されています。前頚部(首の付け根)の両側、腋窩部(脇の下)、鼠径部(大腿の付け根の前面、股関節部)に広く当てて、皮膚直下を流れている血液を冷やす(*5)。避難所向けの記述では、「濡らしたタオル等を肌に当て、うちわであおぐと放熱が促進されます」とも書かれています(*4)。
ここから、停電の夜に効く備えが決まります。うちわ、電池式の小型扇風機と乾電池、大きめのタオル、凍らせておけるもの、そして水。 どれも安く、電気を必要としません。冷凍庫の中身は停電の初日ならまだ冷たいので、タオルに包んで首や脇に当てる用途にそのまま回せます。
ポータブル電源でエアコンを動かす、という発想は、夏の夜については筋が悪いというのが私の考えです。必要な容量が跳ね上がるからです(ポータブル電源は何Wh要るか/必要Whの計算ツール)。停電の夜に電気で買うべきなのは、部屋の温度ではなく扇風機の風と、情報と、明かりです。
なお、千葉で最大約93万戸が停電した2019年の台風15号は、9月の出来事でした。復旧の見通しが市区町村別に示されるまでに4日半かかっています(千葉で停電が2週間続いたとき、家で何が止まったか)。日本の長期停電は、実績として暑い側で起きています。
4. 冬の停電で、いちばん危ないのは「暖を取ろうとした瞬間」
冬の停電は、夏より打ち手が多い。寝床の中は寝具で作れるからです。掛け布団を足す、寝間着を重ねる、湯たんぽを入れる。電気を使わずに寝床内の温度を上げる手段は、いくつもあります。
危ないのは、その次に来る発想のほうです。「部屋ごと暖めよう」として、屋内で燃焼器具を使うこと。
製品評価技術基盤機構(NITE)の集計では、2011年度から2020年度までの10年間に通知された携帯発電機の事故は17件。そのうち換気不十分による一酸化炭素中毒が12件で、そのうち死亡事故が5件。この10年間に報告された携帯発電機の死亡事故は5件で、その全部が換気不十分による一酸化炭素中毒です(*6)。注意喚起の文言は明確です。「屋内では絶対に使用せず、屋外の風通しの良い場所で使用してください」。屋外であっても、自動車内やテント内で使用すると屋内と同等以上の危険性があるとも書かれています(*6)。
カセットこんろにも、同じ性質の指摘があります。カセットこんろ全体を覆うような大きな鍋や鉄板を使わない、2台以上並べて使わない(ボンベが過熱して破裂するおそれ・*6)。暖を取る目的で長時間つけっぱなしにするのは、この注意の外側にある使い方です(カセットボンベは何本あればいいか)。
冬の低体温症も、屋外の話ではありません。日本救急医学会の全国調査(2010年12月〜2011年2月・68施設・418例)では、発生場所は屋内303例に対し屋外100例(不明15)、平均年齢70.4歳でした(*7)。屋内が屋外の3倍です。
だから冬の停電で決めておくことは、器具を増やすことではなく、順番です。①寝床の中を厚くする ②着るもので体を包む ③居間ではなく1部屋に集まる ④燃焼器具を使うなら、必ず換気を確保し、寝るときは消す。 ④を最後に置くのがこの順番の要点です。
5. 貸す側から見ると、温度は「窓」の話になる
私は千葉県で戸建てを3棟、貸しています。この1年で直したのは6件で、金額が言えるのは4件です(*8)。
- 2026年3月16日 トイレのボールタップ・フロート交換 19,800円(税込・業者請求書)
- 2026年4月 同じトイレの本体交換 本体43,500円(通販購入・領収書)+工事24,200円(税込・業者請求書)
- 2025年6月 屋根修繕/2025年9月 風呂の床の修繕/2026年6月 給湯器交換、雨漏り修理
温度に関する修繕は、この1年で1件もありません。温度は壊れないので、請求書が出ないからです。 その代わり、夏に暑い部屋と冬に寒い部屋は、入居後に必ず言われます。そして原因は、ほぼ窓に集まります。
停電の夜に効く準備で、いちばん地味で、いちばん外れがないのはここです。
- 夏 … 日射が入る前に止める。すだれ、外側に掛ける日よけ、遮熱のフィルムやカーテン。入った熱を追い出すより、入れないほうが安い。 停電中は室内側でできることが減るので、これは平時の工事です。
- 冬 … 窓は寝室でいちばん冷える面です。厚手のカーテンを床まで届く長さにするだけでも、窓際に落ちる冷気の流れが変わります。寝床を窓から離す配置も同じ方向を向きます(寝室に置いていいものと、置いてはいけないもの)。
- 賃貸なら … 窓に手を入れる工事は貸主の持ち物に手を入れる話です。先に管理会社か貸主に聞くのが早い。 すだれ・カーテン・置き型の日よけなど、原状回復に触れない範囲でできることも多くあります。
今日の1歩
寝室に温度計を1つ置いてください。それだけです。
見るのは2つの数字だけで足ります。
- 夏の寝る前 … 28℃を超えているか。 超えていれば、それは寝具で調整できる範囲の外だという合図です(*1)。停電時は、部屋ではなく体を冷やす側へ切り替える。
- 冬の明け方 … 18℃を下回っているか。 下回っていれば、布団の中ではなく、布団から出た瞬間に備える話になります(*2)。
温度計は1,000円台からあります。停電の夜に何をするかを決められる人と決められない人の差は、道具の値段ではなく、平時に自分の寝室が何℃なのかを見たことがあるかどうかです。
出典
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」コラム「暑さと睡眠の関係」(36頁)=「快適に眠れる室温の上限は28℃と言われ、寝具での調節は困難なため、冷房を使用する必要があります」「高温多湿な環境で眠ると、体温調節を維持するために覚醒してしまうと考えられています。睡眠よりも体温調節が優先されるのです」「高温環境が睡眠に及ぼす影響は、成人よりも高齢者や幼児で大きくなるため、注意が必要です」。同38頁=「夏季(7月から9月の間)の高齢者(70歳以上)の居室では、若年者より室温が2℃ほど高く(31-32℃に達している)、相対湿度が約5%高い高温多湿の環境(就寝時を除く)で生活していることが報告されています」。同78頁=「家の中は、夜間でも昼間の熱がこもるため、寝苦しい熱帯夜の時には、高齢者は、寝ているうちに知らず知らずに熱中症になる場合があります」。https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年2月・健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会)「良質な睡眠のための環境づくりについて」温度の項(24頁)=「夏の寝室の室温上昇時に、睡眠時間が短縮し、睡眠効率が低下することが、実生活下の調査によって報告されています。夏の寝室はエアコンを用いて涼しく維持することが重要と考えられます。冬に寝室温が低下した場合に、睡眠が悪化することを示した報告は乏しく、十分に寝具を用いることで寝床内が暖かく維持された場合には、睡眠への影響は少ないと考えられます」「夜中にトイレへ行く場合や、早朝起床時に、急な寒さに曝されると、血圧が急激に上昇し、脳卒中・心筋梗塞の発症につながるおそれがあります。WHOの住環境ガイドラインは冬の室温を18℃以上に維持することを推奨しています」。https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
- 総務省消防庁「令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」(令和7年10月29日・確定値)=救急搬送人員の累計100,510人(平成20年の調査開始以降で最多)。年齢区分別は高齢者57,433人(57.1%)。傷病程度別は軽症63,447人(63.1%)・中等症34,399人(34.2%)・重症2,217人(2.2%)・死亡117人(0.1%)。発生場所別は住居38,292人(38.1%)・道路19,773人(19.7%)・公衆(屋外)12,175人(12.1%)・仕事場①10,559人(10.5%)。住居の構成比は令和3年39.4%/令和4年39.5%/令和5年39.9%/令和6年38.0%/令和7年38.1%。https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r7/heatstroke_nenpou_r7.pdf
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」災害時の熱中症予防(67〜68頁)=「【停電・電力不足】屋内でエアコンや扇風機が使えないとき ・涼しい服装 ・風通しをよくする ・からだを冷却する(濡れたタオルを肌に当ててうちわであおぐ、冷却グッズ、電池式扇風機、水シャワー、等)※屋外では、直射日光を避けましょう」。避難所の項=「気温・湿度の管理が難しい場合等は、氷や冷えたペットボトル等で首や脇等の太い血管が通っているところを冷やすよう避難者に促しましょう。濡らしたタオル等を利用しても有効です。濡らしたタオル等を肌に当て、うちわであおぐと放熱が促進されます」。在宅避難の項=「停電や浸水により自宅で冷房が使えなくなる可能性があります。その場合、高温多湿な環境になるため、家の中で熱中症リスクが高まります」。https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」現場での応急処置(24頁)=「冷やした水のペットボトル、ビニール袋入りのかち割氷、氷のう等を手に入れ、それを前頚部(首の付け根)の両側脇、腋窩部(脇の下)、鼠径部(大腿の付け根の前面、股関節部)に広く当てて、皮膚直下を流れている血液を冷やすことも有効です」「皮膚を濡らしてうちわや扇風機で扇いだり、氷やアイスパックなどで冷やすのもよいでしょう」。https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf
- 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)News Release「自然災害時にまさかの製品事故!?~停電時のCO中毒にも注意!~」(2021年8月26日)=2011年度から2020年度までの10年間にNITEへ通知された製品事故情報のうち、携帯発電機の事故は17件(被害事象別=死亡5・軽傷6・拡大被害2・製品破損4)、うち「換気不十分による一酸化炭素中毒」が12件(死亡5・軽傷6・拡大被害1)。「携帯発電機は、一酸化炭素発生による中毒のおそれが高いため、屋内では絶対に使用せず、屋外の風通しの良い場所で使用してください」「カセットこんろ全体を覆うような大きな鍋や鉄板を使用したり、カセットこんろを2台以上並べたりして使用しないでください。カセットボンベが過熱され、破裂するおそれがあります」。https://www.nite.go.jp/data/000128116.pdf / 同機構「停電時の発電機によるCO中毒や、復旧後の通電火災に注意!」(令和5年8月29日)=「屋外であっても、自動車内やテント内で使用すると屋内と同等以上の危険性があります。排ガスが逆流しないように出入口、窓など開口部から離れたところ、かつ、風通しの良いところで使用してください」。https://www.nite.go.jp/jiko/chuikanki/press/2023fy/prs230829.html
- 日本救急医学会 熱中症に関する委員会「本邦における低体温症の実際-Hypothermia STUDY2011最終報告-」(日本救急医学会雑誌 2013; 24: 377-89)=2010年12月1日〜2011年2月28日、全国68施設に搬送された体温35℃以下の患者418例。男女235:182(不明1)、平均年齢70.4±19.2歳。発生場所は屋内303:屋外100(不明15)。既往歴は循環器系147が最多。「本邦における冬季の低体温症例は、屋内で高齢者に起こりやすく」。本調査は学会による全国調査であり、政府統計ではない。 https://www.jaam.jp/nettyu/20130822_teitaion_houkoku.pdf
- 自宅(千葉県の戸建て・賃貸中)の修繕実額。2025年6月=屋根修繕、2025年9月=風呂床修繕、2026年3月16日=トイレのボールタップ・フロート交換19,800円(税込・業者請求書)、2026年4月=同トイレの本体交換 本体43,500円(通販購入・領収書)+工事24,200円(税込・業者請求書)、2026年6月=給湯器交換および雨漏り修理。物件の所在地・業者名は非公開。
※本記事は公的資料の読み方をまとめたものです。室温の管理基準や推奨値は、それぞれの資料が想定している場面(住宅か特定建築物か、睡眠の話か循環器の話か)が異なるため、本文中で区別して示しています。熱中症・低体温症が疑われる症状があるとき、また持病がありご自身に適した室温の目安を知りたいときは、医療機関にご相談ください。燃焼器具・発電機の使用可否は、必ず各製品の取扱説明書に従ってください。