3.5㎡内閣府「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」が、スフィア基準に沿って避難所で確保するよう求めている1人当たりの居住スペースの最低面積。畳2枚とすこし。国はこの面積を「生活空間の確保」の章に置き、同じ章でパーティションと簡易ベッドの設置を求めている避難所と車中泊で、最初に壊れるのは睡眠(国のガイドラインには「寝床」の章がある)
内閣府の「避難所運営等避難生活支援のためのガイドライン」には、全19章のうちの1つとして「12.寝床の改善」という章があります(*1)。
食料の章、トイレの章、入浴の章と並んで、寝床だけで1章です。
そして、その章のチェックリストの一番上に並んでいる2項目が、これです。
1-1 床に直接寝ることでアレルギーや喘息等が悪化する危険性を認識し、住民・避難者に周知する
1-2 床に直接寝ることでエコノミークラス症候群が発症する危険性を認識し、住民・避難者に周知する(*1)
避難所に何を持っていくか、ではありません。「床に直接寝ること」そのものを、危ないこととして住民に伝えておけ、が国の指示の1行目です。
つまり国が避難所に求めている最低ラインは、「屋根の下に入れること」ではない。床から体を離して、横になれることです。ここを先に知っておくと、備えの中身が変わります。
1. 「寝る」は、避難所では最後に整うものになりやすい
同じガイドラインの目次を順に見ると、章立てはこうなっています。運営体制、避難所の指定、初動の事前想定、受援体制、帰宅困難者・在宅避難者対策。発災後は、運営サイクル、情報、食料・物資、トイレ。ここまでが「基幹業務」。続いて衛生的な環境の維持、健康管理、そして12.寝床の改善。さらに衣類、入浴(*1)。
並び順は、優先順位そのものではありません。それでも食料とトイレが「基幹業務」に置かれ、寝床が「健康管理」の側に置かれている構図は、現場の順番をよく表しています。水と食料とトイレをどうにかしているあいだ、寝床は後ろに回ります。
だからこの章の解説には、こう書いてあります。
寝床については、プライバシー確保のためのパーティションと併せて、初動は毛布や通気を確保する等、寒さ暑さの緩和に努めるとともに、マットや段ボール仕様やエアーベッドも含め簡易ベッドを避難所開設時から設置できるようにしましょう。そのために、事前に、これらの物資を各避難所に備蓄することが望ましいです。(*1)
「開設時から」という言葉が入っているのは、放っておくと後ろに回るからです。
そして面積の基準もあります。もう1本の国の文書「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」の「10 生活空間の確保」には、スフィア基準に沿って、1人当たり最低3.5㎡の居住スペースとなるようにすること(*2)。畳2枚とすこし、です。同じ章の(1)には、パーティション・段ボールベッド・エアーベッド等の簡易ベッド・屋内用インスタントハウス等を備蓄し、避難所の開設時に設置することが重要である、とあります(*2)。
スフィア基準というのは、国際的な人道支援の最低基準をまとめた「スフィア・ハンドブック」のことで、ガイドラインは「今後の我が国の『避難所の質の向上』を考えるときの指標となる国際基準」と位置づけています(*1)。日本の法律ではなく、目指す線として引かれた数字です。
2. 国が「床に寝ること」を挙げる理由は、2つしか書かれていない
理由の書き方が、そっけないほど具体的です。
これは、床に長期的に横たわっていると、エコノミークラス症候群を引き起こすだけでなく、埃等を吸い込むことによる健康被害も心配されるからです。(*1・*2にも同旨)
血栓と、埃。この2つです。
ガイドラインは、その手前でこうも書いています。狭い避難所での寝泊まりが続くことやストレス等により静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を引き起こす可能性があり、その影響が甚大な場合は死に至る可能性も否定できません(*1)。だから国は寝床を1章立てにした。逆に言えば、やることは章にまとまっていて、もう決まっているということです。
対策として挙がっているのも短い。定期的に体を動かす、弾性ストッキング(エコノミークラス症候群を防止するためのくつ下)を導入する、そして立ち上がりやすいベッドの導入は効果的(生活不活発病の防止のため)(*1)。
床から離す。動く。この2つが、国の文書で寝床のまわりに書かれていることのほぼ全部です。
3. 車中泊で問題になっているのは「寝ること」ではなく「座ったまま寝ること」
ここが、いちばん誤解されているところだと思います。
厚生労働省の「エコノミークラス症候群の予防のために」は、起きる状況をこう定義しています。
食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないと、血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。(*3)
主語は「車で寝ること」ではありません。「狭い座席に長時間座っていて足を動かさない」ことです。
同じページの予防6項目も、そこに揃っています。(1)ときどき、軽い体操やストレッチ運動を行う (2)十分にこまめに水分を取る (3)アルコールを控える。できれば禁煙する (4)ゆったりとした服装をし、ベルトをきつく締めない (5)かかとの上げ下ろし運動をしたり、ふくらはぎをもんだりする (6)眠るときは足を上げる(*3)。
だから、車中泊の準備で先に決めることは、毛布でも食料でもありません。その車で、足を伸ばして水平に近い姿勢になれるかどうかの1点です。
これは平時に、家の駐車場で1回やれば分かります。後席を倒す、荷物を前に出す、シートの段差をクッションや畳んだ荷物で埋める。そこまでやって何センチ確保できるかを、実際に横になって確かめておく。 停電した夜の駐車場で初めて試すのと、明るいうちに1回試してあるのとでは、まったく違います。
もう1つ、国の文書の置き場所も知っておく価値があります。車中泊避難は、取組指針では避難所の章ではなく「18 在宅避難等」の章に入っています(*2)。避難所の外にいる人、という扱いです。そこにはこう書かれています。
車中泊避難については、健康面から注意が必要な点も多く、弾性ストッキング等のエコノミークラス症候群の予防に必要な物資の配布が必要であるほか、アウトリーチや自らの情報の登録により、状況の把握を進めることが考えられること。(*2)
「自らの情報の登録により」。つまり、車中泊を選んだ人は、こちらから居場所を伝えないと支援の対象として把握されにくい。同じ項では、車中泊のスペースとして指定避難所の駐車スペースのほか、大規模な都市公園や商業施設の駐車場でトイレや物資支援のスペースが確保されている場所、道の駅などの活用が想定される、とも書かれています(*2)。
どこの駐車場でもいい、ではない。トイレがあるか、支援が届く場所かで選ぶ、が国の想定です。
4. 夜のトイレは、睡眠と同じ問題として動いている
トイレの話が、寝る話に戻ってきます。
内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」には、新潟中越地震(2004年)のときの数字が載っています。
・トイレが不安で水を飲むことを控えたとする人は小千谷市で33.3%、川口町で13.8%にのぼった。
・死者60人のうち半数近くが関連死といわれている。ストレスや不眠、集団生活による感染症等も原因と考えられる。トイレを我慢したことも一因となっている。(*4)
3人に1人が、トイレが不安だから水を飲むのを控えた。そして国の文書は、関連死の要因に「不眠」を挙げています。
同じガイドラインは、この連鎖を一般化してこう書いています。トイレが不衛生であるために使用がためらわれ、排泄を我慢することが、水分や食品摂取を控えることにつながり、栄養状態の悪化や脱水症状、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)等の健康被害を引き起こすおそれが生じる(*4)。
数の基準も出ています。スフィア基準に沿って、発災後初期段階では50人に1基、中期段階では20人に1基とし、女性用と男性用の割合が3:1となるように対応すること(*2)。さらに仮設トイレについては、照明の確保による安全対策が必要と明記され、チェック項目には夜間照明を個室内・トイレまでの経路に設置するとあります(*4)。
夜、暗い経路を歩いてトイレに行けるかどうかが、水を飲むかどうかを決めて、それが体に返ってくる。 寝床とトイレは、別々の準備ではありません。
携帯トイレの必要数の数え方は携帯トイレは何回分で足りるかに書きました。そこで数えた回数のうち、夜の分が自分の寝床の近くにあるかを、いま一度見てください。
5. 大家として見ている順番は「避難所に行かなくていい家」が先
貸家の修繕記録を見返すと、毎年直しているのは屋根と水回りです。2025年6月に屋根修繕、2025年9月に風呂の床、2026年3月にトイレのボールタップ・フロート交換で19,800円(税込・業者請求書)、2026年4月に同じトイレの本体交換で本体43,500円(通販購入・領収書)+工事24,200円(税込・業者請求書)、2026年6月に給湯器交換と雨漏り修理(*5)。
金額そのものより、内訳の偏りのほうが本題です。 家で寝続けられるかどうかを決めているのは、家の見た目でも間取りでもなく、屋根が雨を止めているかと、トイレと風呂が動くかでした。ここが生きていれば、家に残るという選択肢が残る。ここが落ちると、寝床ごと外に出ることになります。
2019年の台風15号のとき、千葉県内で断水した13万3,474戸の主な原因は停電でした(詳しくは千葉で停電が2週間続いたとき、家で何が止まったか)。家そのものが無事でも、水が止まれば家で寝られなくなる。 だから在宅避難の準備は、寝床の準備と同じ話です。
寝室そのものを安全にする話は寝室に置いていいものと、置いてはいけないものに、停電した夜の温度の話は停電の夜、寝室は何度まで動くかに分けて書いてあります。
今日の1歩
避難所や車で「どう寝るか」を、今日1つだけ決めてください。
- 床から体を離すものを、1つ選んで持ち出せる場所に置く。 国が挙げているのはマット、段ボール仕様の簡易ベッド、エアーベッドです(*1・*2)。避難所に届く保証はないので、自分の分を1つ。寝袋より先に、下に敷くものです。
- 車中泊を考えているなら、明るいうちに1回、その車で横になってみる。 足が伸びるか、頭から足まで水平に近くなるか。段差をどう埋めるか。厚労省の予防項目の最後は「眠るときは足を上げる」です(*3)。埋めるものは家にある座布団やクッションで足ります。
- 夜の分のトイレを、寝る場所の近くに置く。 トイレが不安だから水を控える、という連鎖が国の文書に書かれています(*4)。夜間に困らない状態にしておくことが、水を飲める状態を作ります。
- 家に残れる条件を確かめる。 屋根、水、トイレ。この3つが動くなら、家で寝るのがいちばん静かです(条件と備蓄の量は避難所に行かない備え=在宅避難で必要になるもの、揺れたあと家を寝られる状態に戻す順番は地震のあと、眠れる家に戻すまでの順番)。
なお、家族の事情で「そもそも避難所に行けない」と決めている場合は、寝方より先に紙の手続きが効くことがあります=ペット・子ども・高齢者がいる家の避難の段取り。
このサイトで具体的な商品を薦めるのは、金額と根拠を出せるようになってからです。今日は、持っているもので「床から離れて、足が伸ばせる」形を1つ作るところまでで十分です。
出典
- 内閣府(防災担当)「避難所運営等避難生活支援のためのガイドライン(チェックリスト)」平成28年4月(令和6年12月改定)=目次「Ⅱ 避難所の運営(発災後)(2)健康管理 12.寝床の改善(p.41)」/解説「災害やその避難生活による環境では、狭い避難所での寝泊りが続くことやストレス等により、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を引き起こす可能性があります。その影響が甚大な場合は死に至る可能性も否定できません。寝床については、プライバシー確保のためのパーティションと併せて、初動は毛布や通気を確保する等、寒さ暑さの緩和に努めるとともに、マットや段ボール仕様やエアーベッドも含め簡易ベッドを避難所開設時から設置できるようにしましょう。そのために、事前に、これらの物資を各避難所に備蓄することが望ましいです。これは、床に長期的に横たわっていると、エコノミークラス症候群を引き起こすだけでなく、埃等を吸い込むことによる健康被害も心配されるからです」/ポイント「避難者には、開設時からパーティション・簡易ベッドの確保を目指す」/「エコノミークラス症候群を引き起こす血栓の発生防止のため、定期的に体を動かす、弾性ストッキング(エコノミークラス症候群を防止するためのくつ下)を導入する等、寝床の充実と併せて、健康被害の抑制に努めましょう。また、生活不活発病防止のためにも、立ち上がりやすいベッドの導入は効果的です。スフィア基準においては、1人当たり最低3.5㎡の居住スペースとすることが示されており、避難所開設時からパーティションを設置して居住スペースを確保しましょう」/チェックリスト「対策項目1 寝床の改善を実施する 1-1 床に直接寝ることでアレルギーや喘息等が悪化する危険性を認識し、住民・避難者に周知する/1-2 床に直接寝ることでエコノミークラス症候群が発症する危険性を認識し、住民・避難者に周知する/1-3 寝具として毛布、布団等を確保する」/スフィアプロジェクトの位置づけ「今後の我が国の『避難所の質の向上』を考えるときの指標となる国際基準となります」。https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412hinanjo_guideline.pdf
- 内閣府(防災担当)「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」平成25年8月(令和6年12月改定)=「10 生活空間の確保(1)パーティションや、段ボールベッド、エアーベッド等簡易ベッド、屋内用インスタントハウス等を各避難所において備蓄し、避難所の開設時に設置するなど居住環境を確保することが重要であること(段ボールベッドについては業界団体の推奨規格に留意すること)。なお、床に長期に横たわっていると、エコノミークラス症候群を引き起こすだけでなく、埃等を吸い込むことによる健康被害も心配されるため、ベッドの設置が望ましいこと」/同(6)「平時から想定避難者数に対応するために、指定避難所や協定・届出避難所を増やすこと、ホテル・旅館等への避難の準備を進めること等を進めておき、スフィア基準に沿って、1人当たり最低3.5㎡の居住スペースとなるようにすること」/「7 トイレの確保・管理(5)スフィア基準に沿って、発災後初期段階では50人に1基、中期段階では20人に1基とし、女性用と男性用の割合が3:1となるように想定避難者数に応じて対応すること」/同(4)「快適トイレに限らず、照明の確保による安全対策、手洗い等の衛生対策、バリアフリーに取り組む必要があること」/「18 在宅避難等(4)車中泊避難については、健康面から注意が必要な点も多く、弾性ストッキング等のエコノミークラス症候群の予防に必要な物資の配布が必要であるほか、アウトリーチや自らの情報の登録により、状況の把握を進めることが考えられること。車中泊避難を行うためのスペースとしては、指定避難所の駐車スペースのほかにも、大規模な都市公園や商業施設の駐車場であってトイレや物資支援のスペースが確保されている場所、道の駅、平時からレジャーとして車中泊を行うことを想定し設備が整った施設等の活用も想定されること」。https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412kankyokakuho.pdf
- 厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」=「食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないと、血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。その結果、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する恐れがあります」/予防「1.ときどき、軽い体操やストレッチ運動を行う 2.十分にこまめに水分を取る 3.アルコールを控える。できれば禁煙する 4.ゆったりとした服装をし、ベルトをきつく締めない 5.かかとの上げ下ろし運動をしたり、ふくらはぎをもんだりする 6.眠るときは足を上げる」。https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07384.html
- 内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」平成28年4月(令和6年12月改定)=「トイレが不衛生であるために不快な思いをする避難者が増え、その上、トイレの使用がためらわれることによって、排泄を我慢することが、水分や食品摂取を控えることにつながり、避難者においては栄養状態の悪化や脱水症状、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)等の健康被害を引き起こすおそれが生じる」/「2.新潟中越地震(平成16年10月23日発生)状況=災害用トイレは100人に1基の割合では、数が足りないという苦情が多くあった/トイレが不安で水を飲むことを控えたとする人は小千谷市で33.3%、川口町で13.8%にのぼった/死者60人のうち半数近くが関連死といわれている。ストレスや不眠、集団生活による感染症等も原因と考えられる。トイレを我慢したことも一因となっている」/東日本大震災「トイレの設置場所が暗い、和式トイレである、段差がある等の問題により、高齢者、障害者、女性、子供等にとって使用しにくいものもあった。このことから、トイレの使用を減らすために水分や食事を控えることとなり、避難者の心身の機能の低下や様々な疾患の発生・悪化が見られた」/チェック項目「夜間照明を個室内・トイレまでの経路に設置する」。https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412hinanjo_toilet_guideline.pdf
- 自宅(千葉県の戸建て・賃貸中)の修繕実額。2025年6月=屋根修繕、2025年9月=風呂床修繕、2026年3月16日=トイレのボールタップ・フロート交換19,800円(税込・業者請求書)、2026年4月=同トイレの本体交換 本体43,500円(通販購入・領収書)+工事24,200円(税込・業者請求書)、2026年6月=給湯器交換および雨漏り修理。物件の所在地・業者名は非公開。
- 千葉県「令和元年房総半島台風等への対応に関する検証報告書」第2章=水道「合計13万3,474戸 断水(15事業体)」/厚生労働省 医薬・生活衛生局 水道課「令和元年度(2019年)房総半島台風(台風第15号)及び東日本台風(台風第19号)水道施設被害状況調査報告書」(令和3年3月・現在は環境省サイトで公開)=「主な被害要因は停電であった」。詳細と全出典は当サイトの記事「千葉で停電が2週間続いたとき、家で何が止まったか」に記載。https://www.pref.chiba.lg.jp/gyoukaku/press/2019/kensyou-last-houkoku.html
※本記事は公的資料の記載をまとめたものです。エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)をはじめとする健康上の判断・予防・治療については、この記事ではなく、かかりつけ医や自治体の保健師などの専門職にご相談ください。 本記事は特定の症状の予防効果や改善効果を主張するものではありません。避難所の運営方針・受け入れ条件・車中泊の可否は市区町村や施設によって異なるため、お住まいの自治体の防災担当窓口でご確認ください。